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万葉神事語辞典:はじめに

はじめに

  本辞典は、オンライン版として國學院大學研究開発推進機構日本文化研究所より刊行されることとなりました。そのことを踏まえて、以下に本辞典の趣旨を申し上げます。
  日本の伝統文化の源泉は、神を祀るという文化にあります。日本各地には多くの神社があり、八百万の神々が祀られています。さらにそれらの神社では、一年の内に大小さまざまなお祭りが行われています。このような伝統文化は古来より日本列島の人びとが育んできたものであり、そこには日本人の精神的伝統が息づいています。こうした神を祀るという態度は、宗教的であるとともに、民族的な文化としての意義も大きくもっています。そこに伝統文化が生まれるのは必然的なことでした。
  神を祀ることで民族的文化を形成したのは、日本人のみではなく、世界的な文化現象でもあります。日本の周辺諸国を見ても、神を祀ることによるさまざまな伝統文化が存在します。しかも、それらには民族的色彩が濃厚に現れています。その意味では、日本人が神を祀り民族的文化を育ててきた歴史は、他の国々の文化形成と等しいものといえます。
  こうした民族的な文化形成の原泉として、日本には八世紀に生まれた『古事記』『日本書紀』『風土記』『万葉集』などの古代文献があります。『古事記』や『日本書紀』や『風土記』には、神々の叙事が多く記されています。また『万葉集』には、神とともに生活した万葉びとの精神世界が歌により表されています。まさに、これらには日本人の精神的文化の源泉が窺えるのです。
  ここに『万葉集神事語辞典』を編むことを企画しました目的は、以下の三点にあります。第一は、日本文化の伝統あるいは日本人の精神生活の源流を言葉の上から考えようとすることにあります。それが『万葉集』であるのは、『万葉集』には古代日本人の生活や精神性が強く表れているからにほかなりません。第二は、『万葉集』に見られる神事語彙を通して、古代日本人の言語文化や神観念を、今日の最も新しい知見により理解することにあります。第三は、専門家のみではなく、日本文化を知ろうとする一般の方々、あるいは外国の方々にも理解できる辞典であることを目的としています。
  なお、本辞典は平成二十年六月に上記日本文化研究所より刊行された基本台帳である『万葉集神事語辞典』(非売品)に基づきます。この段階の基本台帳に修訂を加えたのが、このオンライン版です。オンライン版を通じて、日本はもとより、世界各地の人びとにも親しまれることを願うものです。
  最後に、本辞典に執筆をいただきました多くのみなさまに、厚くお礼を申し上げます。また、オンライン化のために技術を駆使され、事業を進めていただいた日本文化研究所に、深く感謝申し上げます。本オンライン版は、今後、さらに項目の追加などにより、充実した内容にしたいと考えています。
 
   2009年9月21日
監 修 辰巳 正明    
        城﨑 陽子